昨年(2020年)私はきっと一生強く印象に残るだろうプロジェクトに出会いました。香川県で活動される伝統工芸士さんと作家さんのグループ「讃岐ざんまい」さんのインバウンド向け動画を制作するというプロジェクト。このプロジェクトに参加された「讃岐ざんまい」の6作家さんのうち、当事業部が動画制作自体も担当したのは2作家さん。そのうち1作家さんとの制作は忘れがたいものとなりました。この記事では、その作家さんとの動画制作の裏話、そして当事業部が担当させていただいた動画、プロジェクトをご紹介します。
「ファミリー盆栽」というアイディアを広めたい -花澤明春園様
初めてお打合せをさせていただいた時から、花澤さんには明確なビジョンがありました。「家族で盆栽を育てるというライフスタイルを普及させたい」というビジョン。花澤さんは俳優を起用して、家族が盆栽を育てていく動画を想い描いていらっさいました。一方で、盆栽は生き物、季節季節で「見せ場」の違う盆栽を全て追うには一年以上の制作期間が必要になります。また、残念ながら、ご予算的に俳優を複数人起用しセットを組むのは現実的ではありませんでした。
そこで、当事業部がご提案させていただいたのは「紙芝居のような物語の動画はいかがですか?」というもの。この案であれば、物語の作成も、イラストの作成も、動画の制作も当事業部内で全てでき予算内に収まります。
花澤さんに盆栽や植物の世界を教えていただいていると、花澤さんが「命」をとても大切にされていて、自然への愛情がとても深いことが分かります。花澤さんからお話を伺う間、受け取った思いを物語におこす際、私がテーマに選んだのは植物の「命」と「思いやり」でした。
こうして生まれたのが、『エリカとソフィー』。ある日、エリカのお母さんが小さな鉢に植えられた植物のお世話をしていることに気づくエリカ。それが何なのかをエリカがお母さんに尋ね、それが「盆栽」だということをエリカは知ります。お母さんから「これはあなたのよ」と一鉢の盆栽を渡され、お母さんは続けます「名前をつけて、水をやって、話しかけてあげれば魔法が起こるよ」と。そこから始まるエリカとエリカの盆栽の物語です。
私自身遠い昔は小さな女の子で、子供の頃は生き物全ての自分と同じ感情があると思っていましたが、大人になるにつれて、そういった心は忘れていました。また、小さな女の子が身近にいる方、私のように女の子を子育てされた経験のある方はご存じだと思います。女の子はとってもオシャマで、時々、大人が返す言葉も見つけられないような確信をついたことを言いますよね(苦笑)。小さな娘が「●●なんじゃないの!?」と言ってくる姿に、自分が娘を叱る姿はこんな風に見えているのか…なんて思ったりしたものです。
そんな子供だった頃の自分が感じていたものや、小さかった娘とのやり取りを思い出しながら、今回の物語を描きました。花澤様にも大変気に入っていただけて、ご覧になった方からの評判も良いそうで、ホッとしています。
本編は2分ですので、ぜひ、ご覧ください。
「組手障子(くでしょうじ)とは」を知ってもらいたい -森本建具店様
当事業部の海外事業KoLeで大変お世話になっている、森本建具店さんも、この讃岐ざんまいのメンバーさんです。今回の動画制作に関して、「伝統工芸士である作家さん」に焦点をあてるか、「組手障子」という伝統工芸に焦点をあてるか方向性をお伺いしました。「やっぱり、まずは香川県の伝統工芸である組手障子は何か…を知ってもらった方が、業界にとってもええやろう」ということで、香川県の伝統的工芸品「組手(くで)障子」とはどういうものなのか…という動画を制作することになりました。
森本さんとは一緒にお仕事をさせていただく機会が多く、国内外を問わず、展示会や商談会の場でお手伝いさせていただくことがあります。その度に、「組手(組子)細工」が何かをまず知っていただき、それが建具職人(戸などを作る職人)の技だということを知っていただかないと、スタートラインに立てないということを痛感してきました。
後でも、説明しますが、今回の動画は、店舗や展示会で、QRコードを読み取り動画を立ったままその場で観ることを想定して作られました。そのため、長くはできない。周囲の環境もまちまちになるので、「音」で伝えるのは、周りが煩すぎることもあるだろうし、静かすぎて音を出すことを憚られることもあるだろうと考えました。そこで、重要なキーワードは少なくとも頭に残り、もう一度観た時に、細かい文字も目に入る動画を想定。2回その場で観ても苦にならない長さで作成しています。
「讃岐ざんまい」さんのYouTubeチャンネル
今回のプロジェクトに参加された残りの4人の作家さんの動画は、ニューマーク株式会社さんがご担当くださいました。ぜひ、讃岐ざんまいのYouTubeチャンネルでご覧ください。
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インバウンド対策:作家さんが説明しなくても済む方法
一言で「インバウンド対策」と言っても、様々な方法や項目があります。業種、職種によっても必要なことは違いますし、何を優先するのか、どういった状況を目指すのかによっても、インバウンド対応の頻度によっても違ってきます。
例えば「どういった状況を目指すのか」では大きく2つに分けられると思います。日本語を流ちょうに話せない外国人のお客様に対して、スタッフが片言でも外国語で業務をこなせるようにすることを目指すのか。お客様、スタッフ共に外国語を話すことなく、業務をこなせるようにすることを目指すのか。前者と後者ではとるべき対策は大きく変わることは想像しやすいと思います。
また、インバウンド対応が必要な頻度によって、どちらにするのかを決めることもできるでしょうし、その頻度によっては、やり方も違う。そして「今、インバウンド対策のどの段階にあるのか」によっても次に取り組むことも変わってきます。
では、「讃岐ざんまい」さんは今回どのような選択を今回されたのか。
ある日見かけた「讃岐ざんまい」さんの活動風景に今回のヒントがあった。
以前、県内の某所で、讃岐ざんまいの方々が展示販売をされていた時のこと。私も様子伺いにお邪魔しました。すると、バスが1台駐車場に入ったかと思うと、次から次へと外国人のお客様がいらっしゃいます。海外もしくは県外でも見られない品がありましたので、興味津々の外国人の方々。ちょっと寄ったつもりの私も慌てて森本さんの展示販売ブースにヘルプに入ります。どうやら、外国のクルーズ船が高松に寄港していた日だったようです。幸いその船はアメリカのクルーズ船で乗客の皆さま英語を話す方々でした。讃岐ざんまいの他の作家さんからもヘルプの声が上がります。
あの経験から、「もし、動画で、せめて英語で、私が作っているものはこういうものだよ、と説明できたら、ああいった場面での作家さんの負担はぐっと減るのではないだろうか?」「もし、作家さんの商品を扱っている小売店さんで、商品の横で動画を流せなくても、動画を観られるQRコードが展示されてあったら、小売店さんの負担もぐっと減るのではないだろうか?」と考えたのです。
そこで、今回のプロジェクトは、「動画制作、YouTubeチャンネル、QRコードのついたポストカード」の3点セットをご提案することにしました。
動画が閲覧される環境の想定
- 場所:ポストカード(またはQRコード)が掲示されている展示会や店舗
- 動画視聴者の状態:その場で立ったままの視聴
- 動画視聴デバイス:スマートフォン
動画制作で考慮すべきこと
- 音/音声:会場が賑やかだったり、静かすぎたりすることが想定されるため、「音/音声」に頼る動画が適切かどうかを考える必要がある。
- 長さ:ツアーなどで訪れている外国からの観光客は時間に追われていることがある。また、ふと思いつきで読み込んだ動画がその場で立ったまま飽きずに最後まで観られる長さを考える必要がある。
プロジェクトの拡張性
- 海外から来られたお客様はご自身のスマートフォンを使えないことがある。しかし、作家さんや店舗側は自身のスマートフォンやPCがインターネットに繋がっていれば、動画を見せてあげられることができる。
- 「動画」というフォーマットをとることで、言葉に頼らないコンテンツの追加が可能。作家さんご自身で、作品や制作風景の動画を撮影し、次々にアップロードできるよう一般的な動画配信サービスYouTubeでチャンネル設定を行う。
- 展示会や店舗での利用だけでなく「香川県の工芸品」を知ってもらうため、ホテルなどへポストカードを置かせてもらう活動などを加えれば、認知度を上げることができる。
これでインバウンド対策が完了したわけではないんです。
先にも述べた通り、インバウンド対策は、「何を目指すか」「どういった段階にあるか」「必要性の頻度」によって、様々な対策が必要です。今回、当事業所が関わらせていただいたのは、「讃岐ざんまい」さんのインバウンド対策のほんの一部。ここからグループの皆さんが、グループとして次へ進む必要性を感じるか否か、進むとすれば、最終的にはどうなることを目指すのかによって次のチョイスは無数に存在します。
今回、この記事でご紹介している動画は「日本語版」のチャンネル。本来のインバウンド対策向けに作ったのは「英語版」のチャンネルです。そのチャンネルは>>>こちら<<<でご覧いただけます。
最初に着手しがちで見落としがちなインバウンド対策の落とし穴
最後に、よく見かけるインバウンド対策の落とし穴について、お伝えしたいと思います。
ウェブサイトの外国語版を作る。ということを、まず最初にお考えになる方は多いと思います。けれど「ウェブサイト」はそもそも何のために持っているのか?または、「ウェブサイト」にどんな仕事をさせたいのか?を忘れてはいませんか?
多くの事業所はウェブサイトを自社の案内やカタログそして最終的には、お問合せをいただく手段として運営されているのではないでしょうか?では、外国語版のウェブサイトを作るからには、「その言語での問い合わせが来たらどうするか」という「フローの出口」について考える必要があると私は思います。
Google 翻訳なども、昨今では大変優秀です。それを活用するのも一つの方法でしょう。しかし、あなたの業種で「一般的ではない専門的なこと」はありませんか?実際の売買交渉は翻訳機だけで大丈夫ですか?契約書を翻訳機にかけて出た内容を読んでサインしてしまって大丈夫ですか?
また、ちょっと不思議な日本語で送られてくる迷惑メールを見かけたことはありませんか?そのメールを見て「あやしいな」と感じませんでしたか?「あやしいな」と感じたのは言語が不自然だったからではありませんか?
件数が少なければ、そのたびに、その言語に詳しい方に代理を依頼するのも一つの手でしょう。件数が増えてくれば、誰かを雇う必要があるかもしれませんし、あなたがその言語を学ぶ必要があるのかもしれません。
まず、「フローの出口」についてプランA,B,Cを想定しながら、ぜひ、インバウンド対策に取り組んでいただければと思います。世界とつながるって楽しいですよね^^。
SATOKO
四国内の作家さんで、大量生産できない商品や作品を作られている方は、海外対応を海外事業KoLeでお引き受けできるかもしれません。