映画やドラマを動画配信サービスで気軽に観られるようになった昨今。あなたは海外ドラマや映画は字幕で観る派?吹替で観る派?一昔前よりも字幕をみかける機会が増えた現代。「字幕ってどうやって作ってるんやろ?」って思う方はきっとすくないはず。弊社では、こうやって作ってます。記事の最後に、弊社が今回字幕を担当させていただいた動画もご紹介しています。
当事業部では、当事業部にご発注いただける制作物の一環で、日英翻訳、英日翻訳、英文作成することがあります。ご予算に余裕のある場合は、英語ネイティブ(米国人)による校正または英語ネイティブが校正したものを私が読み、出来る限り原文(日本語)のニュアンスに近い文章に仕上げる作業を行っています。翻訳業務の中で一番困難なのは「字幕用の翻訳」。中でも内容が「日本の文化」に関するものはとても難しいと感じます。他社さんのことは存じ上げませんが、当事業部では、こうやって字幕を作成していきます。
人間が1秒間に認識できる「単語数」には限界がある。
当然のことながら、私たちが文字を認識できる数やスピードには限界があります。その限界を超えて字幕を作成すると「あぁ、何か文字が流れているなぁ」としか認識できません。日本語の字幕では「文字数」でカウントするのが一般的ですが、英語では「単語数」でカウントします。
1秒に3~4単語。
動画の中で、話している人がどんなに早口だったとしても、その動画を観る人が認識できる単語数は変わらないのです。
音声の長さで決まる単語数に合わせて、翻訳をしなくてはなりません。文字におこし印刷物やブログ記事、SNS投稿として使う翻訳とは違い、文字数の多い単語を極力避けて、日常会話で普段から使われる単語を積極的に使います。
見慣れない単語は認識に時間がかかる。
これが、日本独特の文化を伝える内容の場合、もっとも悩ましい事実。
皆さんもご経験があると思うのですが、例えば、カタカナで表記される言葉で良く目にするものはすぐ認識できると思います。ところが、初めて目にするカタカナ表記でとくにその文字数が多ければ、認識するのに時間がかかるはずです。
「日本独特の文化」は、他の言語でその動画を観る人にとって「見慣れない単語」のオンパレード。日本独自のもので、それに対する英単語がない、もしくは、英単語があっても、その単語が日常的に使われない単語である場合…固有名詞として「ローマ字で表記する」という手があります。しかし、「ローマ字表記」は曲者です。日本語での1音はローマ字で2文字~3文字になるものがほとんどです。すると、アルファベット表記した際に「見慣れない言葉/知らない言葉」な上に「文字数が多い」単語になってしまいます。
すると、「見慣れない文字数の多い単語」を見て「なんだろう?」と読もうとしている間に、次の字幕に流れてしまっては大変。ある程度は「仕方ない」と割り切るしかないのですが、極力、それは避けたい。
では、どうするか。ローマ字表記した日本語を使う箇所では、使う単語数を減らす。このようなことも少し配慮しないといけないのです。例えば、尺が4秒あれば、理屈では12単語は使えるのですが、ローマ字表記された単語を1つ使うなら、その尺で使える単語の制限を10単語に落とすなど。
文法の差に悶絶することがある。
どうやったって、避けられない事実。「日本語と英語には大きな文法の違いがある」。
よく言われるのは、その文章が肯定なのか否定なのか、英語は最初の数単語で分かりますが、日本語は文章の最後まで聞かないと分からない。こんな場合は、実際に言っている音声と英語字幕の表示が前後することもあります。前後を入れ替える方法もないこともないのですが、ずっと倒置法で話しているのは…ちょっと不自然です。
日本語から英語に訳す際、悶絶することがほとんどなのですが…日本語は「詳細を語らずとも雰囲気で伝わる言語」で、一方、英語は日本語に比べて「詳細を述べる言語」であること。
日本語の原文が手元に来て七転八倒するのは、「主語がない…」「三人称単数の人の性別が分からない…」「文章の切れ目があいまいで、どの言葉がどこにかかっているのか曖昧…」といった時。要するに、普段の私たちの話ことばがほとんど当てはまります。日本語から英語に翻訳する際は「語られていない部分」を補う作業が必要になります。
以前、インターンシップで、インターンの書いてくれていた日記ブログを翻訳していて毎回困ったのが「三人称単数の性別が分からない」こと。ベトナム人で日本語を話すインターンだったので、記事は日本語で上がってきます。インターンシップは日本語話者、英語話者が対象になっているので、彼女たちのブログを二か国語表記にするために、私が翻訳をして掲載していました。一番困ったのが「私の日本語の先生が~だったので、先生と一緒に~」といった表現。英語に訳す時、最初に出てくる先生は、teacherと表記できますが、2度目は「she/he」と表記するのが英語では自然です。しかし日本語の原文からは…先生が女性なのか、男性なのかはたまた、複数人なのかは分かりません。時間があれば本人に確認するのですが、締め切りはその日のインターンシップを終えて、翌日のインターンシップ開始までだったので、確認することもできません。そういえば、どうやって乗り越えたのでしょう…記事を見直しに行くのが少し怖いですね…。
音声をタイムコードで区切る→文字おこし→仮翻訳→英語ネイティブとのすり合わせ→最終字幕
字幕を作成するには、このような手順で作業をしていきます。
音声を文字におこす
動画のどの部分の字幕なのかが分かるように、そして、その音声がどのくらいの尺があるのかが明確になるように、タイムコードも記載された原文(日本語で話している通りを文字におこしたもの)を用意します。
今回のプロジェクトは、動画制作を担当してくださった、ニューマーク株式会社さんがこの部分をやって下さいました。ほんっとうに助かりました!
それぞれのセグメントに、何単語使えるかを記入しておきます。
日本語から英語へ仮翻訳
私の手元に来た日本語の原文を、できるだけ単語制限に合わせて英語に翻訳していきます。これを私たちは「仮翻訳」と呼んでいます。字幕の仕事では特に、私の英語力ではどうしても、制限単語数に収まらない部分も出てきます。
英語ネイティブとのすり合わせ
仮翻訳が出来たら、英語ネイティブと対面またはウェブ会議で、一つずつすり合わせをしていきます。
表現が「妙な英語」になっていないか、仮翻訳で制限単語数を超えている部分を制限内に収めるリライト、使われている表現が一般的で字幕の文章が見やすくなっているか、これらの確認作業などを行うのが、英語ネイティブのここでの役割。
一方で、私の役割は、英語ネイティブがリライトしたものや、提案したものが、原文からかけ離れすぎていないかを確認。英語ネイティブにとって理解の難しい日本文化や原文のニュアンス説明などを行います。
今回は全て3分未満の動画でした。この作業は、1本1時間半~2時間かかります。
最終字幕
今回は、動画の制作自体は、ニューマーク株式会社さんがされていたので、字幕を動画に入れる作業も彼らでした。そのため、最終的に出来上がった字幕に対し、それぞれのセグメントの表示時間などが入った状態で、テキストデータを仕上げて、字幕データの作成は完了!!!
英語字幕の本職さんはもっと効率よい作業をされているのではないかなぁと思います。今回は元々字幕制作が予算に入っていないところに、字幕が必要になるというちょっとイレギュラーな案件でした。出来ることなら(なんでもそうですけど)本職さんに依頼できることは依頼するに越したことはないと思います。
今回字幕を作成した動画
もし、あなたが「字幕がつくかもしれないインタビュー」を受けるなら…
字幕を作る私も、こんなことをいちいち考えながら話せるとは思えないのですが、ひょっとしたら、あなたのお役に立てるかもしれないので、冗談半分で見てみてください。
- できるだけゆっくり話す:
こうすることで、あなたの1文に費やせる英語字幕の単語数が増えます。そのため、あなたのニュアンスに限りなく近い翻訳が可能になります。 - 日本特有のものの話をするときは、その言葉やものの説明も一緒に話す:
こうすることで、たとえローマ字表記された単語を使わざるをえなくても、見ている人も(字幕制作者もw)それが何なのかを字幕を読むことで理解できます。
例)「大豆を発酵させてつくられた日本の調味料で醤油というものがありますが、当社ではこの醤油を何代も引き継がれている木樽で熟成させています」と言っていただければ、「しょうゆ(英単語にあって有名なものですが、例なので)」を「SHOYU」と表記しても、それが何か、他の部分の字幕をつけることで、見る人、訊く人(そして字幕制作者w)も理解できます。 - できるだけ「は、が、を、に」を使って、代名詞もつかって短い文章で話す:
これは、半分冗談、半分本気です。様々なものを省いても、伝わる日本語ですが、そうではない言語に訳すとき、あなたに具体的なことを再度質問しないといけないことも出てきます。インタビューってだいたい自分が何を言ったか言ってしまえば半分以上の内容を忘れます。なのに「その先生は、女性ですか?男性ですか?1人ですか?複数人ですか?」みたいな質問に答えるのは大変だと思います。(よっぽどのことがない限り、私は、質問しませんが…でも、よっぽどの時は訊かざるをえない)
だけど、実質問題、自然に日本語を話していたら、これをやるのは至難の業です。
「役にぜんっぜん立たない!!!!」と思われた方、ごめんなさい。「あ、なるほど」と思われた方、ぜひ、ご活用を!